ボカロPをこれから始めようと思っている方、もしくは始めたばかりの方の中には「初心者ボカロPのレベルが高い」と感じる方は多いのではないでしょうか。実際に僕も、ボカロPを始める前に想像していたボカロPルーキーのレベルと実際に活動しながら見た(聴いた)レベルの差に驚きました。
ボカロP界隈に2年居座ってみると、「自分にこのレベルの曲を作っていける自信がない」「周りと比べて自分の楽曲のクオリティが低い」といった理由で活動を辞めていく方をたくさん見てきました。活動を辞めはしないものの精神的に病み活動から離れていく方、そのままフェードアウトしていく方もいました。
しかし現在のボカロPの中にハイクオリティが楽曲を制作する人が多いのには理由があります。この事実を知っているだけで周りと比べて自分の楽曲のクオリティが低くて落ち込んだり活動を辞めていくといった事は少なくなると思います。
この記事ではそういった方が少しでも減るよう、ハイクオリティ楽曲を制作する初心者ボカロPが多い理由について解説していきます。
運営者情報
1102(ひとつ)
2022年8月「ヒトツノオト」でデビューしたギター歴10年以上のボカロP。
バンドサウンドを主軸とした楽曲を制作。
ニコニコ動画、YouTubeに楽曲動画配信中。
初心者ボカロP(ボカロPルーキー)とは?
まず初めにボカロPルーキーの定義についてです。
ボカロPルーキーとはその名の通り「初心者ボカロP」のことを指します。音楽活動における初心者の例として、
・DTM初心者=DAW上での楽曲制作を始めたばかりの方
・ギター初心者=ギターの練習を最近始めて方
を指します。これにボカロPを当てはめると、
・ボカロP初心者=ボカロ(含むその他合成音声ソフト)を用いての楽曲制作を始めたばかりの方
となります。
ボカロP界隈ではボカロP歴2年未満の方をボカロPルーキーと呼ぶ風習があります。これは「The VOCALOID Collection(通称ボカコレ)」と呼ばれるボカロを用いた楽曲の投稿祭で、ボカロP歴2年未満の活動者に参加資格が与えられる「ルーキー部門」がある事からきています。
ボカロP歴2年以上になるとルーキー部門への参加資格が剥奪され、「TOP100」部門への参加へ移行されます。
TOP100への経験年数的な参加資格は特にないからボカロP歴2年未満でも参加できるよ。ちなみにこの他にもネタ部門やREMIX部門とかもあるね。
ボカコレはニコニコ動画内で行われるイベントです。ここで言うボカロP歴2年未満の基準は「ニコニコ動画でボカロを用いた楽曲を投稿してから2年未満」となります。
これらのことからボカロPルーキーの定義を簡潔に言うと、ニコニコ動画で初めてボカロを用いたオリジナル楽曲を投稿してから2年以内のアカウントを持っている方となります。公式サイトの[よくある質問]で詳しく見れますので、そちらを参考にしてみてください。
※例外として、2025年2月21日から開催予定の「ボカコレ2025冬」では、オリジナル楽曲の初投稿が2025年8月2日以降の方となっています。これは前回開催予定であった「ボカコレ2024夏」がサイバー攻撃により中止となったためです。
ハイクオリティ楽曲を制作するボカロPルーキーが多い理由
察しの良い方は前項で予想が付いている方もいるかもしれませんが、ハイクオリティ楽曲を制作するボカロPルーキー(以下ルーキー)が多い理由は大きく分けて2つあります。
ここからはこの理由2つ(+余談1つ)を解説していきます。
ボカロPルーキー = 音楽初心者ではない
1つ目は、ルーキー=音楽初心者ではないという点です。
あくまでボカロを用いたオリジナル楽曲を制作した経験がルーキーの定義なので、
・楽器も弾けない音楽知識のない音楽初心者
・10年間DAWでEDM楽曲を制作していたDTM熟練者
・20年以上バンド活動でオリジナル楽曲を制作をしてきた方作曲熟練者
ボカロを用いた楽曲を作ったことさえなければ、これらの方はルーキーを名乗れます。
例として、僕の尊敬するB'zの松本孝弘さんが自身の楽曲に稲葉さんではなくボカロに歌って貰うと、立派なボカロPルーキーとして活動ができます。
ちなみに僕も楽曲こそまともに制作したことは無いけど、知識は多少あって10年以上ギター経験がある状態でボカロPルーキーとして活動を始めたよ。
個人名は伏せますが、僕が2年間活動してきた中で
- 過去にバンド活動でオリジナル楽曲を制作しCDをソールドアウトさせていた
- EDM楽曲を制作していた、DJ経験がある
- バンドでメジャーデビューの経験がある
- 音楽を通してテレビ等メディアへの出演経験がある
- 音大の卒業生
というルーキーの方を見てきました。このような方には多少の音楽経験がある僕でも太刀打ちできません。
ボカロPとして活動していくということは上記のような経験や実績の持ち主と同じ土俵で活動していくということです。相当のセンスや才能がない限り、数ヶ月〜1.2年の音楽活動でこのような方にクオリティで勝つことは正直かなり厳しいです。
また、ボカロPとして肝心な部分であるボカロの調声(ボカロエディタを使用して歌唱ファイルを作成する技術)に関してはそこまで難しくありません。近年合成音声のAI化により、ベタ打ちでもリアルに歌ってくれるようになりました。
もし自分の楽曲と他の方の楽曲を比較するのであれば、ボカロP歴では無く音楽歴や知名度が同じ方と比べてみてください。もし音楽歴が同じくらいの方の楽曲が自分の楽曲よりクオリティが高ければ素直に褒めてみる、コツを聞いてみるのも良いかもしれません。そうした交流の中で楽曲制作のヒントを得たりお互いに楽曲を聴き合うことによるモチベーションの向上にもつながります。
転生
先程の音楽活動歴が長いという点はルーキーを名乗るにおいて全く問題がありませんが、ここで解説する「転生」は非常にグレーゾーンだと個人的には感じています。
まずボカロPにおける転生とは、「ボカロPとしての活動歴があるにも関わらず、新しい名義でルーキーとして活動を始める」事を指します。この転生という言葉はボカロPだけでなく歌い手等に対して使われることもあります。
例として、米津玄師(ハチ)さんが新しくアリという名義で新たに活動をすれとします。するとアリさんはボカロ楽曲の制作実績があるにも関わらず、初心者ボカロPのルーキーとして活動ができます。もちろんアリさんはボカロ楽曲の制作の経験があるため、真のルーキーとは呼べませんがこれを調べる術はありません。これが転生です。転生にはメリットやデメリットなど様々ですがここでは割愛します。
これは僕も聞いただけであり実際に調べたり本人から聞いたわけではありませんが、ボカコレ前に突如ルーキーとして現れハイクオリティな楽曲で参加し結果がでなかったらアカウントを削除するという方が一定数いると聞いたことがあります。
おそらくこれは
・「ルーキーでこのクオリティは凄い!」という話題を狙う
・数曲目投稿より初投稿の方が伸びるため(再生数を稼ぐため)
が主な目的かと思われます。このような転生者もいるためハイクオリティな楽曲を制作するルーキーがたくさんいるとも言えます。しかし中にはルーキーとしてではなく、これまでと異なる新たな音楽スタイルでスタートしたいなどの目的を持ち、元の活動名は伏せつつ転生の事実を公にしている方もいます。
ルーキーとして活動しない転生者は良いですがルーキーと偽る活動者はほぼ詐欺みたいなもので納得いかない点は正直ありますが、これは仕方ないと思うようにしましょう。
繰り返しになりますがハイクオリティな楽曲を制作している方が転生しているかを調べる術はありません。自分は転生したと公表している方も中にはいますが、そうではない方に「ルーキーでこんなかっこいい曲を作れるなんておかしい、お前は転生だ!」みたいなことを言うのは絶対にやめましょう。
余談:ボカロP=調声をする人
上記2点がハイクオリティ楽曲を制作するルーキーが多い理由です。ここからは本題と少しずれたお話です。
ボカロPと聞くとどのようなことをする方をイメージするでしょうか?僕は正直あまりボカロPに詳しくなかったので、
・自身の強みを生かし作詞作曲・編曲を行う
・その曲に合成音声ソフトを使用して歌って貰う
・完成した曲にミックス、マスタリングを行い楽曲として完成させる
・完成した楽曲に合わせたMVを制作し各種動画サイトに配信
までの流れを全て一人で行う方をイメージしていました。また、楽曲を配信する方法は動画投稿だけでなくサブスク配信という手段もあることを知りました。
サブスクってプロの人しか配信できないと思っていたから審査さえ通れば誰でも配信できると知った時はすごく驚いたなぁ。
しかしたくさんの再生数を叩き出している曲のクレジット表記を見てみると、僕の認識と異なる点があることに気づきました。それは「楽曲制作に関わるのが複数人いる」ということです。
作曲が別の方は記憶上見たことがありませんが、編曲やミックスは別の方という方は割と多いです。おそらくボカロPを始めるまでの僕の認識は間違っており、ボカロP界隈の中で指すボカロPとは「ボカロの調声をする人」ではないかと思います。
イラストや動画を外注する事はイメージできていましたが、ミックスはまだしも編曲を依頼している方を見た時は正直「そんなの有り!?」と衝撃を受けました。ですが今考えてみると動画等は依頼しても良いのに編曲やミックスを依頼してはいけないという考えの方がおかしい気がします。
というよりネット上で複数人集まり一つの楽曲を制作できると言うのもボカロ楽曲の制作として面白い点だと感じます。
それぞれ役割を決めて複数人で楽曲を制作するという投稿祭もあったりするよ。
また、依頼にはお金がかかる場合がほとんどです。金額は[初心者・無名 <プロ・著名人]です。これは何においてもそう言えますが、お金を出せば出した分だけクオリティが上がります。また、著名人に一部を制作してもらい、その方の名前を使ったりその方に「この楽曲の○○を担当しました!」のような紹介をして貰えると再生回数は増えます。
極端なことを言えばルーキーの方がプロの方に作曲からミックス・マスタリングまで外注し、自身はボカロの調声だけをするだけでもルーキー部門として参加することは可能(なはず)です。それを初投稿として投稿すれば「ハイクオリティ楽曲を投稿したルーキー」として話題となれる可能性もあります。
まとめ
以上が、僕がボカロPを始めてから感じたハイクオリティ楽曲を制作するボカロPが多い理由です。
まとめるとボカロPルーキーの中には、
・音楽初心者ではない
・既にミュージシャンとしての知名度を獲得している
・過去にボカロPとしての活動歴がある転生者
・楽曲の一部をプロに依頼
という方が大勢紛れています。実際僕が2年間の間で交流した方々はこれらに当てはまる方の方が多いくらいです。これはボカロというジャンルが世間的に認知されてきたこと、コロナ禍の影響で外で活動しづらくなったり家にいる時間が増えたたりといったことが主な要因でしょう。
よく「楽曲初投稿のボカロ曲がバズって一気に有名ボカロPに」みたいな話を見かけますが、その方達も既に知名度がある方か音楽経験が豊富な方が多いです。「楽曲初投稿でバズる」という華やかなイメージとは裏腹に、このようなボカロPは多くの努力と経験を積み重ねています。
もし過去に音楽活動をしたことがなく、ボカロPが音楽活動の出発点という方はこのような現状に気付かず「自分以外のルーキーはクオリティが高い、自分には才能がないのかも...」と心が折れるかもしれません。しかしこのような現状があることにこの記事を通して気づけたと思います。焦らずゆっくりと音楽スキルを磨き経験を積んでいきましょう。作曲スキルを身につけるには時間がかかるかもしれませんが、経験を重ねればきっとハイクオリティな楽曲を作ることができます。
もちろん僕もまだまだ成長段階の身ですので、一緒に多くの人を魅了するような楽曲を制作できるように頑張っていきましょう。
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