ボカロPとは、VOCALOID(ボーカロイド)という音声合成技術を用いてオリジナル楽曲を制作・発表するクリエイターのことを指します。ボカロPは、その独特の音楽性と個性的なキャラクターで多くのファンを魅了し、日本を始めとする世界中で大きな人気を誇っています。
この記事ではボカロPの特徴について、現役ボカロPが解説していきます。
運営者情報
1102(ひとつ)
2022年8月「ヒトツノオト」でデビューしたギター歴10年以上のボカロP。
バンドサウンドを主軸とした楽曲を制作。
ニコニコ動画、YouTubeに楽曲動画配信中。
ボカロPは何をする人?
ボカロPとはボーカロイドプロデューサーの略で、ボーカロイドの略称であるボカロにプロデューサーの頭文字であるPを付けた呼び方です。このPは、「アイドルをプロデュースするようにボーカロイドをプロデュースする創作活動」のような意味があるそうです。
とは言ってもボカロPの活動はボーカロイドをプロデュースするわけではなく、ボーカロイドを使用した楽曲を制作し発表する人の事を指します。
ボカロ(広義)
ボカロPはその名の通り「VOCALOID(ボーカロイド)を用いて楽曲を制作するクリエイター」のことを指します。しかし近年はボーカロイド以外の合成音声ソフトも増えてきました。
- VOCALOID
- CeVIO AI
- CeVIO Creative Studio
- Synthesizer V Studio
- NEUTRINO
僕の感覚だと最近はVOCALOIDよりCeVIOやSynthesizerVを使っている人の割合の方が高く感じるかな。
このようにVOCALOID以外の合成音声ソフトを使用する方が増えていますが、ボカロを使用する人がボカロPならCeVIOを使う人=チェビオPかというとそうではありません。近年ボカロPと呼ばれている方を正しく説明すると「VOCALOIDを含む合成音声技術を用いて楽曲を制作するクリエイター」です。
これらのエディタの違いとして使い勝手や機能性などがありますが、一番はそのソフトにしかいないキャラクターがいることです。例えば初音ミクを使いたければVOCALOID一択、可不を使いたければCeVIO AI一択のように、使いたいキャラクターがいればその音声を使用できるソフトを選択する必要があります。ちなみにCeVIO AIに関しては2023年現在、Windowsでしか使用できません。
最近はIAやGUMIみたいに、もともとVOCALOID用音声だったけど他のエディタでも販売されるようになったキャラクターもいるよ。
近年のボカロ界隈では、VOCALOIDを含む合成音声のこと=ボカロ(広義)と表現されることがあります。ボカロ楽曲の投稿祭などの参加条件として、ボカロを使用した楽曲を制作ではなく「ボカロ(広義)使用した楽曲を制作」と明記されていることがあります。これはVOCALOID以外の合成音声でも参加可能という意味になります。
とは言いつつ会話のたびにボカロ(広義)と表現することはほとんどありません。会話でボカロという単語が出てきたらボカロを含む合成音声のことという認識で問題ありません。以後この記事やこのブログでもボカロという単語を使用しますが、これにはSynthesizer VやCeVIO等の合成音声技術も含むものとして捉えてください。
ボカロPの特徴5選
ボカロPは一般的なアーティストと大きく違う点がたくさんあります。今回はその中から厳選してボカロPの特徴5選を見ていきます。
個性的な音楽スタイル
ボカロというジャンルは合成音声を使用した楽曲という共通点がありますが、それ以外は楽曲を制作するボカロPによって様々です。ポップスやロックなどのいわゆるJ-POPからヒップホップやEDM等エレクトリックな音楽、童謡や演歌など伝統的な音楽等、すべて自由です。
ボカロは人間の歌声を忠実に再現するだけでなく、様々な表現をすることができます。そのためボカロPは、人間の歌手では実現できないような独特の音楽性や世界観を表現することができます。一口にボカロといっても楽曲を制作するボカロPの多様な音楽性や趣向が反映されるため、様々なジャンルが混在しています。
演奏・歌唱スキルに楽曲が左右されない
バンド活動として活動する場合はメンバー全員の考え方やスキルを基に曲が作られます。シンガーソングライターとして活動する場合は自身の歌唱力や歌の表現力の範囲内で楽曲を制作する必要があります。対してボカロPとして活動する場合、これらの制約をほとんど受けません。
ボカロPは一人で作曲をすることが多いため、自分だけの好みや考え方で楽曲を制作できます。生演奏を録音する場合を覗き、打ち込みのみで楽曲を作成することができるので演奏スキルも必要ありません。
もちろん打ち込みには練習や知識、技術が必要です。特にエレキギターは打ち込み感が強く、ギタリストである僕も生音に近づける打ち込みに挑戦したことがありますがかなり難しかったです。自分で弾くと時間がかかるし、ギターのノウハウもあるなら打ち込みの方が簡単かつクオリティが高いトラックが作れるのでは?と思いましたが、考えが甘かったようです。
ですが中にはは打ち込みか生演奏かわからないようなクオリティで打ち込んでいるボカロPもいます。打ち込みを極めればプロのピアニストやギタリストが演奏できないような表現を打ち込みによって実現することも可能です。
ギター歴10年以上の僕でも生演奏だと思ってたら実は打ち込みだった、というギタートラックを作ってるボカロPに会ったこともあるよ。
また人間が歌う場合は歌い手の音域や表現に沿って楽曲を制作する必要がありますが、ボカロに歌ってもらう場合はこれらを気にする必要がほとんどありません。人間が歌うことがほぼ不可能な音域や発音、歌い方も可能です。ボカロらしい機械的な歌い方、人間らしい歌い方、メタル的なデスボイス、何でもこなします。(もちろんそれなりの経験や知識が必要です)
極端な事を言えば、BPM250の超高速32分ギター速弾き&終始ツインバスドラム、載せる歌は8オクターブを超える音域を3分間息継ぎ無し、といったことも可能です。そのような曲を聴きたいかと言われると僕は聴きたくありませんが、可能性は無限大です。
活発なコミュニティ
ボカロPはインターネット上で活発なコミュニティを形成しており、動画投稿サイト・SNS等でボカロ曲の制作や発表、交流が行われています。特にニコニコ動画は初期のボカロPが活動の拠点としており、今でも主な活動拠点となっています。
このコミュニティは、ボカロPの活動を支える重要な役割を果たしています。このコミュニティを通じ他のボカロPから技術や知識を学んだり、自分の作品を発表してフィードバックを得たりすることができます。また、仲の良いボカロPが組み、それぞれが得意な分野で一つの楽曲を作り上げるコラボ等もよく見られます。自身で演奏はできないけど生楽器の音が欲しいボカロPは、演奏を得意とするボカロPに依頼するということもあります。
またネット上だけでなく、THE VOC @LOiD M @STER(通称:ボーマス)といったボカロ専門の楽曲やグッズ、同人誌等の即売会も開催されています。無名ボカロPから有名ボカロPまで幅広く参加しており、ファンや他クリエイターとの交流の場として知られています。
これらのコミュニティの活発さは、ボカロP活動の活性化やボカロの普及に大きく貢献しています。
独自のアートワーク・イラスト
ボカロPは、楽曲に合わせて独自のアートワークやイラストを使用したMV(ミュージックビデオ)を制作することが一般的です。中には楽曲配信だけ行なっているボカロPもいますが、多くのボカロPは楽曲だけでなく、イラストやMVを含めて自身の作品としています。
これはボカロPの活動拠点=ニコニコ動画が浸透していることに加え、楽曲配信のみで活動するよりも動画配信の方が聴いて(見て)もらいやすいという点が大きいです。
しかし、ボカロPが楽曲を制作した上でイラストを描いて動画まで作ることはとても大変です。僕のようにイラスト・動画制作が苦手(できない)というボカロPもたくさんいます。そこでイラストを描ける方(絵師) や動画制作ができる方(動画師)がボカロPと一緒に協力し、一つの作品を作り上げることが多いです。
アートワークは単なるジャケットイメージだけでなく、楽曲の世界観やキャラクターの表現を豊かにする要素となっています。これにより、ボカロ楽曲は聴覚だけでなく視覚的な要素も含む作品としての魅力を持ち合わせることになります。
インターネットを活用した音楽スタイル
ボカロPの音楽スタイルは、基本的にライブ活動ではなく動画配信を行うというものです。2023年現在、インターネットを活用した音楽スタイルはあまり珍しい物ではなくなってきましたが、従来音楽活動の本質は「演奏を直接届ける」ものだったと思います。現在は各種SNSサービスを通じて音楽活動をするアーティストも少なくありませんが、それは楽曲を知ってもらいライブに足を運んでもらうための宣伝活動とも言え、本質は従来の「演奏を直接届ける」にあるのではないでしょうか。
MVが完成系のボカロPとは異なり、バンドやソロアーティストが一番重要視するものはMVや楽曲単体ではなくライブパフォーマンスです。バンド等生演奏を行う活動スタイルは会場を作り上げるアーティスト活動、楽曲を単体ではなくイラストや動画により視覚的に楽しませるMVを作り上げるボカロPはクリエイター活動、このように活動の本質が全く異なります。
またバンドやソロアーティストはレコード会社に音源を送り契約し、テレビ等メディアへ露出して知名度を上げていきます。ライブセッティングや新曲の宣伝等マーケティング的なことは基本的にレコード会社が行なってくれるため、奏者は楽曲制作や練習に力を入れることができます。
これに対しボカロPはレコード会社と契約していない場合が多く、自身で楽曲制作から宣伝活動まで行う人が多いです。それなりの知名度があれば別ですが、無名ボカロPがどれだけ良い楽曲を作っても宣伝活動を全くしていないと再生すらしてもらえません。逆にクオリティがそこまで高くなくてもマーケティング能力に優れたボカロPはそれなりの知名度を獲得できます。
もちろん最終的には楽曲クオリティが大切なので、楽曲制作能力にもマーケティング能力にも優れた人が最強です。
もちろんこれらには例外もあります。レコード会社と契約しメディアへたくさん露出するボカロPもいれば、レコード会社に頼らず自身で全てのマーケティングを行うバンドマンもいます。
ボカロPとして売れるのは簡単?
ボカロPは演奏技術がいらずライブで集客をする必要もありません。自分の得意なジャンルで曲を作り、ネット上に配信するだけで良いので簡単に人気ボカロPになれそうな気がしませんか?正直僕は簡単だと思っていました。
ですが現実は全く簡単ではありませんでした。曲を作ってDAW上で編曲やミックスをするというボカロPの入り口からとても大変です。もっと言うとDAWをインストールしMIDI鍵盤やオーディオインターフェイスを繋ぎ...等々、DTM環境を構築する段階から難しいです。
さらに曲ができてもイラストを用意し動画を作ることも大変です。さらにさらにここまでくればゴールかと思いきや、いざ動画を投稿すると驚くほど再生されません。ニコニコ動画で広告を入れれば再生数は稼げますが、そうでもしないと100再生いけば良い方です。さらにさらにさらに再生されても楽曲クオリティが良くないと感想の1つも頂けない過酷さに更新を継続することが大変です。
ボカロPになるのはパソコンやスマホさえあれば簡単になることができます。しかし楽曲を聴いてもらえるようになるには、それなりのクオリティの楽曲を作る技術とマーケティング能力が必要となります。そこから売れるボカロPになれる人は極々一部だけです。
簡単になることができる分、参入する人数も多い界隈です。毎年たくさんのボカロPが参入し、同時にたくさんのボカロPが挫折し辞めてていく厳しい世界です。
ボカロPを初めてまだ1年半だけど、辞めたり更新が止まっていく人をたくさん見てきたよ。
まとめ
以上がボカロPの主な特徴です。従来のアーティストの活動方法と大きく異なることがわかったかと思います。
しかし近年ではボカロP以外にもSNSから有名になるアーティストも珍しくありません。特にコロナ禍以降はインターネットを活用した音楽スタイルが主流になってきているとも言えます。ボカロPに限らずネット上で気軽に音楽活動ができる便利な世の中になった反面、全世界にライバルがいるという過酷な状況とも言えます。
また、中には自身の楽曲をライブやコンサートで演奏するボカロPもいます。音楽活動は基本的に自由なので、最終的には活動者の考え方で活動スタイルも変わってきます。
最後にライブハウスを拠点に活動するバンドマンとインターネット上で活動するボカロPの音楽スタイルの違いをまとめて終わります。
ボカロP | バンド | |
音楽スタイル | ・使用する楽器に制限がない ・生楽器を使用してもしなくても良い | ・会場の広さやメンバーによって使用する楽器に制限有り ・生楽器もしくは生歌を使用する必要がある |
必要な技術、知識 | ・音楽理論 ・基本的なパソコン操作 ・EQやコンプレッサー等を使用したミックス・マスタリング技術 | ・音楽理論 ・楽器の演奏技術 ・適度なコミュニケーション能力 |
コミュニティ | ・SNS ・各種イベント(ボーマス等) | ・ライブ会場 |
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